■トイレからのエコアクション推進活動について 加藤 篤(日本トイレ研究所)
NPO法人日本トイレ研究所は、トイレ環境を改善することで社会を良くしていこうという活動をしており、1.トイレ・排泄教育、2.災害時トイレ対策、3.公共トイレの改善などさまざまなテーマに取り組んでいる。 トイレエコアクションは環境再生保全機構から助成を受け、今年で3年目を迎える。「トイレに、愛を。」のスローガンのもと、マナーアップや地球温暖化防止に貢献するべく活動している。全国1700ヶ所のトイレの個室に7種類の「トイレの詩(ステッカー)」を掲示した結果を共有し、今後、活動をどのように展開していくべきかみなさんと一緒に考えていきたい。
■デザインの力でトイレマナーが変わる 並河 進((株)電通ソーシャル・デザイン・エンジン)
電通ソーシャルデザインエンジンという集団に所属していて、そこにはコミュニケーションの力で社会の為にできることがあるのではないかと考える人が集まっている。 「トイレに、愛を。キャンペーン」は、トイレの無駄な紙や水を減らすことによるCO2の削減と、トイレマナーの改善を目的としている。 最初は、タバコのポイ捨て禁止キャンペーン等と違い、トイレは完全な密室なので、他人の目による抑止力が働かず難しいと感じた。悩んだ挙句、トイレのことだけでなく、もっと大きな話をすることで、人々から優しさを引き出そうと思いついた。トイレによくある落書きではなく、美しい詩があったら、トイレは汚く使ってもよい場所と思っていた人たちに変化を起こせるかもしれないと感じた。 2008年テスト導入した際には、詩とトイレットペーパーの写真、トイレのアートを個室に掲示した。新宿高島屋ではトイレットペーパー使用量の調査協力が得られ、その結果、詩を掲示したブースではトイレットペーパーの使用量が約20%減だったが、トイレのアートを貼ったブースでは約32%増えたので、この結果をふまえて「トイレの詩」を全国展開することにした。 また、2009年には家庭用に1週間日めくりトイレの詩と小学校用の詩をつくり、掲示した。 詩を書いていく中で考えたのは「人々にとってトイレとは何か?」ということ。トイレはただ排泄するだけではなく、無意識に使っているようでも本当はいろいろな事を考えている場所であり、例えば人生の休息場所、イマジネーションがわく場所、暮らしのリズム、他の人の知らない素顔を知っている、陰で人々を支える存在、生きていることの象徴などいろいろなとらえ方をすることで、トイレを起点として新しい可能性を切り開くことにつながるのではないかと感じた。 今年は多くの人が参加できるキャンペーンを企画していて、「みんなでトイレの詩を書く」という参加方法も良いかなと考えている。詩を書くことで、トイレとは何かを多くの人に考えてもらい、トイレの好きな人の輪を広げられたらいい。 2009年11月7日、8日に表参道ヒルズの並びにある公衆トイレに、いいトイレの日(11月10日)に合わせて、数名のアーティストとともに作品を出展した。(表参道トイレ美術館)2日間でのべ3340人の訪問者があり、約半分は純粋にトイレに行きたい人、残りの半分は美術館に興味を持って入っていたようだった。参加したクリエイティブやアーティストはこのような試みを面白いと感じていた。ただのトイレ好きの集まりだけではなく、トイレ研究所と一緒にこのような活動をすることで、トイレをきれいにするなど社会改善につながっていると感じる。
トイレに、愛を。 恥ずかしくもうれしい小さな告白 「実は私もトイレに興味があるんです。」 その瞬間 おしりを見せあったような不思議なきずなが生まれる さぁトイレでつなごう 世界を愛を生きる喜びを この世界では 今日もどこかで知らない誰かが トイレについてこっそり思っているから
■質疑応答
■トイレからのエコアクション推進活動の結果 永原 龍典(日本トイレ研究所)
この「トイレに、愛を。キャンペーン」は、公共性の高い公衆トイレや商業施設のトイレなどを対象に、協力者を募集し掲示。ペーパー使用量の削減や、トイレ利用のマナー向上といったことを狙った活動で、平成21年の2月と11月に実施した。 特徴として、「きれいに使いましょう」などの直接的表現ではなく、「詩」という表現方法を用いてみた。 この活動でどれだけの効果が得られたのか、実施結果をアンケートから見ていく 。 商業施設・公共施設の参加は、20年度から21年度にかけて施設数は96から164、個室数は約1300から1700に増加した。 今回のキャンペーンが、どのくらいの人の目に触れられたかというと、全施設における1日当たりの利用者数の概算が2万人、これをキャンペーン期間の30日に換算すると、約60万人の目に触れた可能性があると計算できる。
今回のキャンペーンでは、ステッカーを掲示した自治体、小学校、家庭に対して行ったアンケートに加え、一般利用者と表参道トイレ美術館来館者に対してアンケートを行った。以下にその結果を示す。 自治体・商業施設のキャンペーン参加への期待を、エコ、マナー、クリーン、イメージの4項目に分類したところ、エコは20年度57%、21年度41%、マナーが20年度15%、21年度31%とマナーへの期待が高まっている。 今回の実施結果として最も重要な「ペーパーの削減効果」は、減ったという回答が11ポイント減少、同じという回答が14ポイント増加した。減ったという回答の程度をみると、概ね10%程度の削減効果であった。 トイレ利用者数をカウントすることは実際には難しいため、施設の集客数などをベースにトイレ利用者数を概算し、ペーパーの使用量は補充量で確認します。20年度に実施した新宿高島屋では、キャンペーン実施期間中÷事前調査=79.2%となり、20.8%減したということがわった。 また、トイレを利用したお客様の声として「忘れかけていた大切な優しい気持ちを思い出すことができました」「ペーパーや水など資源を大切に使用しなければと思いました 」などの感想があったとのことです。 小学校で実施した結果、効果が出た事例と出なかった事例にはっきり分かれた。効果が出た事例では、「1年生全体でキャンペーンへの取り組みをおこなった」など積極的に取り組む傾向が見られ、「ペーパーがトイレにぶら下がっていたり、芯が落ちていたりすることが少なくなった。」という結果が得られた。一方、効果が出なかった事例では「ステッカーの掲示のみで、特別な指導を行っていない」などの傾向が見られ、「使用量や、マナーの変化は見られなかった」という結果が得られた。 その結果、取り組みを行ったクラスと行っていないクラスで比較すると、約3割の使用量削減効果が表れた。
家庭での実施では、3ロールの消費期間の増減を計ってもらった。効果があった家庭における削減率の平均は26%となっている。 また、トイレで行っているエコな工夫を聞いてみたところ、「ペーパーを無駄なく使えるよう心がける」「暖房便座の電源・温度調節をこまめに」「暖房便座の蓋をしめる」「大便を小のレバーで流す」「大便前に、ペーパーを少し便器に敷くことで、清掃回数減」などの意見があった。また、「タンク内に、水の入ったボトルを入れて節水」という意見もあったが、これは、必要な水量の設計がされていることや、タンク内の栓に引っ掛かり無駄な水が流れ続けてしまう可能性がある。 QRコードを利用した一般のトイレ利用者アンケートでは、応募者数220件、男女比は、女性:男性=3:1、年齢層は20歳代36.4%、30歳代26.4%となった。 おすすめできるトイレはどのようなところのものですか?という質問では、商業施設34%、高速道路・道の駅10%、コンビニエンスストア6%という結果であった。その理由としては、キレイ・清潔60%と高く、広い12%、落ち着く7%、パウダールームとして5%であった。キレイの割合はとても高いが、それ以外の理由もいいトイレの要素として参考になると考えられる。 また、並河氏の話にもあった「トイレはどのような場所か」という質問では、落ち着く・安らぐ20%、独りになれる・素になれる19%、無くてはならないもの15%、憩い・一息つく・ゆっくりできる12%という結果。 表参道トイレ美術館に対するアンケート結果では、「支持する意見」93.1%で、「トイレに滞在しても嫌じゃないと思える」「普段殺風景なトイレが楽しく利用できた」「ほんわか和みました」などの意見が寄せられた。「支持しない意見」として、「トイレ自体をもっときれいにしてほしい」などが5.9%あった。
また、QRコードで行った一般利用者アンケートと、表参道トイレ美術館来館者を対象にしたアンケートの2つにおいて、外出時のトイレをどのくらい前に利用しましたか? という質問をしてみた。 この結果、「一週間以内」「一ヶ月以内」という回答は、デパート、コンビニ、カフェ、駅が含まれている。一方、「一年以上使っていない」が多くなった回答では、公園や道路上の公衆トイレがある。前の質問と併せて、選ばれるトイレの姿というものを考えるヒントになるのではないかと思う。
■地球温暖化防止に向けた取り組みと、トイレエコアクションへの期待 植田 明浩(環境省地球環境局国民生活対策室室長)
子どもたちに“毎日付き合ううんちを通して身近に環境を考えてもらう”ことを目的として、「ウンチくんおともだち」という絵本を作成したことがある。トイレ研究所の行っているキャンペーン活動と絵本の内容は同じことを目指していると感じた。 以前、京都御苑を管理していたときに、24時間利用可能なトイレにもかかわらず、トイレマナーが良いことに気がついた。人々の中には京都御苑という場所に対する敬意があり、マナーを心がけているのではないかと思う。 現在、環境省ではチャレンジ25キャンペーンを推進していて、個人・団体のチャレンジャーを募集しているので是非参加して欲しい。地球温暖化は着実に進んでいて、この100年間の温度上昇は0.7度、最近では加速度的に上昇している。温暖化により、異常気象や生態系の変化が起こっているのは間違いの無い事実で、これを抑えなくてはいけない。 世界のCO2排出量における地域別の割合はアメリカ、中国が大きいが、日本も4.3%を占めているので、これを削減していかなくてはいけない。COP15では途上国のCO2の上昇をどれだけ抑えられるかが問題になっているが、先進国も積極的に取り組まないと途上国理解は得られない。COP15では、全ての国が参加する実行力のある国際的な枠組みをつくることを目指している。 日本国内のCO2排出量の内訳を見ると、産業と運輸は90年に比べ減少しているのに対して、オフィスと家庭は増えている。オフィスと家庭はまさにトイレがある場所なので、トイレからのエコアクションには大いに意義があると思う。 環境省の「しんきゅうさん」というWebページでは、今、使っている製品を新しく買い換えた場合のCO2の削減量がわかる。最近では、これに温水洗浄便座が加わり、電気や水の削減量を示しているので、是非活用して欲しい。
■実施事例報告1 宮川 友里(湘南ステーションビル(株) CS推進室)
湘南ステーションビルは、熱海ラスカ、平塚ラスカ、茅ヶ崎ラスカ、小田原ラスカを所有し、@地域密着、Aオリジナリティからオンリーワンへ、Bラスカのファンをつくる、という3つのコンセプトを軸に様々なCS活動に取り組んでいる。 1992年、お客様からの改善要望が多かったトイレ問題を解決するために、女性視点を取り入れたトイレ改善プロジェクトチーム“ワンダフルクラブ”を発足した。@トイレのフレッシュさの維持、Aメンテナンスのレベルアップ、B清掃スタッフのモチベーションアップを目的に活動している。 「トイレに、愛を。キャンペーン」の『トイレットペーパーを大切に使ってほしい』という思いに賛同し、また環境を大切にする姿勢をアピールしたいという思いから参加を決めた。 2008年、2009年の2回にわたり参加し、茅ヶ崎、平塚、小田原の3店舗、合計106ブースにステッカーを掲示した。平塚ラスカの女子トイレで、利用者数とペーパー数を測定したところ、一人当たり12.1%の削減という結果が得られた。また、現場で清掃スタッフが利用者から好意的な感想をいただいたり、キャンペーンに賛同する旨のお便りを頂くなどの反響もあった。
■実施事例報告2 柏 貴浩((株)世界貿易センタービルディング 施設管理部)
世界貿易センタービルは1971年に建てられた超高層ビルで、高さ約150m、延べ面積が約150万u、40階建て、商業テナントとオフィスの複合ビルである。1日に約10万人がこのビルを訪れ、ビル内で約6,000人が働いている。 オフィスビルにおいて消費されるエネルギーや資源の内、トイレットペーパーが占める割合は非常に小さいものである。しかし、利用者が1日のうちの長い時間をオフィスで過ごすことや、ビルの通過人口の多さを考えると、ビルの環境負荷低減に対する取組み姿勢を示し、また、利用者に参加を促す試みとして意義のある活動と思い今キャンペーンに参加した。環境問題は色々な意味で皆が取組む必要があり、ビルにおいては施設側スタッフ(オーナー・清掃スタッフ・メンテナンススタッフ等)だけでなく、利用者側にも参加・協力を働きかけていきたいと思う。そういった意味で、トイレという小さな空間は、利用者が環境を考える共通の場所として可能性を秘めていると考えている。 清掃スタッフの協力の下、1ヶ月のキャンペーン期間中のトイレットペーパー使用量を集計したところ、前月比で約8%の減となった。ステッカーを外した後も使用量は減っており、キャンペーンの効果か分からない為、現在も追跡調査を行っている。トイレの滞在時間が短いのに対し、「詩が長すぎる」という意見もあった。ステッカーが剥がされて、流されてしまうこともあったので、トイレットペーパー自体に詩が書かれていたり、流しても支障ない紙質であっても良いと感じた。 今回の活動の成果を、ビルを利用するお客様にどのように伝えていくかは、私共の課題として検討している。森林面積やCO2の削減量に換算するなど、参加者が分かりやすく、そして参加意識が高まるための工夫をしていきたいと思う。 弊社ビルは、営業開始から約40年間、節水装置や泡沫水栓などの設備の改善により、水の使用量は格段に減少している。オフィスからの紙をリサイクルしたペーパータオルの利用など水廻りでのエコ活動も実践している。このキャンペーンにも「循環」という考え方を取り入れたり、建物用途や利用者特性に応じたフレキシブル性があってもよいと思う。インダストリアルデザインにつながるようなものや、利用者・施設側スタッフ等みんなが関わっていける仕組みができると良い。最後にもう一つ私見だが、今キャンペーンを通じ、お客様や裏方となって施設を支える人など、多くの意見を聞くことが出来、また、トイレについて考えるよい機会となったことに感謝する。
■ディスカッション
■閉会の言葉 上 幸雄(日本トイレ研究所)
これまで25年間の活動の積み上げがあって、今日のキャンペーンなどの活動に至っている。自治体の方の話を聞きながら、25年前に「公衆トイレをきれいにしたい」という思いで始めた我々の活動がまだまだ道半ばだと感じた。みなさんにも是非キャンペーンに参加していただき、これからも活動を推進していきたい。