小学1年生はなぜ便秘になりやすい?
カゴメ株式会社 日本トイレ研究所が2023年に行った調査では小学生12,307人のうち26.3%、約4人に1人は便秘の疑いがあるという結果になりました。
子どもの排便に関する専門医で、これまで3000人以上の患者を初診してきた、小児外科医の中野美和子先生(神戸学園理事・校長、さいたま市立病院小児外科/非常勤・元部長)と、カゴメ株式会社の里見翔平さん(食健康研究所 商品エビデンス研究グループ)にお聞きしました。(聞き手:NPO法人日本トイレ研究所代表理事・加藤篤)
小学校入学は環境が大きく変わるとき
――子どもが便秘になりやすい時期の1つが小学校入学といわれていますが、なぜでしょうか?
中野先生: 小学校入学が便秘になりやすいというのは「小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン」にも書かれていますが、実際に臨床でお子さんを拝見しても、入学を機に悪化するのはよくあることです。
原因はいくつかありますが、環境が激変するということが一番大きいと思います。小学校は保育園や幼稚園とはちがって、時間割が決まっていて、決まった場所でみんな一緒に勉強したり、給食を食べたりする生活です。友達や先生も変わり、子どもにしてみれば、これは大きな変化で、緊張がぐっと高まります。
排便は、自律神経によってコントロールされているので、自律神経が緊張状態になると、結果的に便秘になる子も出てきます。
トイレ環境も大きく変わります。小学校に行くと、トイレの場所や時間が限られますし、古い和式トイレもまだあります。
学校に行くことによる緊張、人間関係の変化、トイレ環境の変化などが重なって便秘になりやすいのだと思います。
里見さん(カゴメ株式会社): 緊張というと、仕事のストレスなどで感じるものというイメージが強いですが、子どもも緊張しているんですね。
中野先生: 子どもなりに慣れない環境でがんばろうとして、緊張を感じています。子どもの体や心が疲れている可能性はないかなと、ちょっと考えてみてほしいです。もちろん、新しい環境に慣れるのが早い子もいますが、そうでない子もいます。慣れない環境に適応しようとする段階で、体のほうに緊張の影響が出てきて、それが排便に表れるという子がいます。
保護者が気をつけるポイントは?
――体からのサインが便秘として表れているわけですね。保護者が気づくポイントや、病院に行く目安はありますか?
中野先生: 小学校入学の時点では、1人でトイレに行く子がほとんどなので、保護者は問題なく便が出ていると思いがちです。便秘はじわじわと進んでくることが多いので、本人も自分からは言わないですし、周りも気づかないことが多いです。「トイレの時間が長くないか」、「排便するのに苦しそうな気配がないか」と気にかけたり、「今日のうんちはどんなのだった?」と聞いてみたりしてください。
受診の目安としては排便回数が週2回以下、連続5日以上出ない、あるいは便が硬くてコロコロして出しにくいというのが、1か月以上続いている場合になります。
食事は規則正しく、できればたくさん食べてバランスよく
――子どもの食事について、便秘の予防をしたいという場合、特に何に気をつけたらいいでしょうか?
中野先生: 「決まった時間に起きて寝る」「3食規則正しく食べる」という生活習慣を整えることが基本です。自律神経を整えるという意味で、規則正しく食べるのは大事です。
便の量を増やすために、たくさん食べることも大事です。
さらに、栄養がきちんと摂れて、食物繊維も摂れる食事になるように気をつけていただければと思います。
一番良くないのは、甘いおやつを食べすぎて夕飯が食べられなくなるパターンです。もちろん、適量であればおやつは食べてもかまいませんが、食事が摂れなくて必要な栄養素が足りなくなるのは問題です。しっかり食べないと、いいうんちは出ませんからね。
また、楽しく食べるということも大切です。子どもの場合は、栄養のことばかりを考えて食べさせるのも難しいですよね。食事が苦痛になるのは良くありません。
まずは規則正しく食べる、次に、できればたくさん食べて、バランスよく食べてほしいということです。
「楽しい」というのは自律神経を整える上でも大事なんですよ。食事や生活が楽しくなかったら、自律神経もうまく働かないということです。
ラブレ菌の摂取で排便日数が増加
――植物性乳酸菌はっ酵飲料を作られているカゴメさんは、いいうんちを出すことについてどうでしょうか。
里見さん: 当社の植物性乳酸菌ラブレは、元々京都の伝統的な漬物である「すぐき」から発見された植物性乳酸菌はっ酵飲料です。
乳酸菌は植物性乳酸菌と動物性乳酸菌に分けられます。動物性乳酸菌は、主にヨーグルトやチーズなどの乳製品をつくる菌です。一方で植物性乳酸菌は野菜や豆類を発酵させる菌になります。動物性乳酸菌は栄養分が豊かな環境で育つのに対し、植物性乳酸菌は、酸や塩分が高い、過酷な環境で育ちます。植物性乳酸菌であるラブレ菌は厳しい環境でも育つ強い菌なので、人の体の中でも胃酸に負けず、生きて腸まで届いて働いてくれると考えられています。
研究の結果、ラブレ菌を摂取した人では、排便があった日数が増加したり、便中の乳酸・酢酸・プロピオン酸などが増加したという報告があります。これらの酸は腸のぜん動運動を活発にするといわれています。
そのため、ラブレ菌を摂取したことで、腸内環境が整い、酢酸・乳酸・プロピオン酸が増えることで腸のぜん動運動が活発になり、その結果、排便日数が増えたと考えています。
中野先生: 酪酸は腸内環境を整えるなど、色々な働きをしているといったことも分かってきていますね。
食事はバランスよく食べるのが難しい場合もありますから、補助的な食品も上手に使ってもらえればいいと思います。
――酪酸がポイントなんですね。食物繊維も関係しますか?
里見さん: 食物繊維は腸内で酪酸菌や、乳酸菌など有用な腸内細菌のエサになります。食物繊維もあわせて摂ることでさらに植物性乳酸菌が活発になるといえます。
ラブレは甘すぎず、カロリーも抑えられているのもポイントです。また、乳不使用※なので、乳製品でお腹の調子を崩しやすい方への選択肢にもなると思います。
(※製造工場では乳を含む原料を使用して製造を行っていますが、当該ラインは十分な洗浄を行っています。)
うんちのにおいや形を確認しよう
――腸のお話が出ましたが、腸内環境がいいかどうかはどうすればわかりますか?
中野先生: 一番手軽なのは、便とおならのにおいを確認することですね。便秘で腸内細菌叢の状態が悪くなっていると、一般的には便やおならが臭くなっていることが多いです。
また、硬い便やコロコロした小さい便が出ているのは便秘の状態です。便秘で排泄がとどこおることは、腸内細菌叢が乱れる原因になる可能性が高いと思います。
――腸内環境が悪くなると、排便以外にも体に影響はありますか?
中野先生: 腸内細菌叢はとても複雑な働きをしていて、体中の臓器と関係があるということがだんだん分かってきていますし、大人の場合は生活習慣病とも関係があるといわれています。また免疫機能とも関係しているため、皮膚の状態が悪くなる場合もあります。例えば子どもでいえば、アトピー性皮膚炎が悪化する場合もあります。
災害時に備えて日頃できることは
――2024年は能登半島地震や日向灘などでの地震があり、防災への関心が高まっています。災害時はまず命を守ることが最優先ですが、安全な場所に避難した後は日常生活がはじまります。こういう状態だと、排便はどうなりますか?
中野先生: 大人も子どもも、自律神経がとても緊張した状態になります。腸の動きが悪くなるので、普段便秘でなくても便秘になる人もいますし、普段から便秘気味の人は悪くなることもあります。食事も栄養が偏りますし、トイレ環境も普段とは大きく違いますよね。
まずは自分で自分の体のケアをすることが大事です。その時、排便状態は目安になります。大人も子どもも、便が出ないと元気が出ません。
――普段から自分の排便状態をチェックして、把握しておくことが必要ですね。食の面ではどうでしょうか?
里見さん: 当社のミッションとして、野菜不足を解消して健康寿命の延伸に貢献するということがあります。特に野菜が手に入りにくい災害時には、野菜飲料で健康を支えたいという思いから、賞味期間が5.5年「野菜一日これ一本 長期保存用」という飲料も作っています。普段から備蓄して、ローリングストックしていただきたいと思います。
――普段から慣れておくのは大切ですね。災害用の携帯トイレ(断水時等に便器にとりつけて使う袋式トイレ)も、災害が起きてから初めて使おうとすると、使い方を間違えたり、自分や家族に合っていなかったという場合もあるので、事前に試すことをおすすめしています。
食品も、特に子どもは災害時に初めて食べるのは難しい場合もありますから、日頃から飲んでおくのは大事だと思いました。災害のときに自分をケアできるようになるためにも、日頃から健康を整えるよう意識することが大切だと思います。
里見さん: 今日のお話を通して、健康とは何かを改めて考えるきっかけになりました。食事は親と子どものコミュニケーションでもあり、生活と健康をトータルで考えることが大切なんだと感じました。
食事は、不調が起きてから意識するだけではなくて、健康なときから意識して整えてもらうことで、生活を支える役割なのだと考えています。災害時もそうですが日常から健康を意識して、排便やトイレのことにも気を配ってほしいと思いました。
中野先生: 保護者の皆さんはとてもお忙しくて大変だと思いますが、お子さんが色んな環境の変化についていけているのかなということを時々は見てほしいと思います。その際に、排便は体の状態が表れやすい目安の1つですから、チェックしていただきたいです。
親がそうした振る舞いをしていれば、お子さんもだんだんと自分の体を気にかけることができるようになっていくと思います。
――ありがとうございました。