災害でも介護でも安心してトイレが使えるように
株式会社総合サービス×うんちweek2020避難所や在宅避難に欠かせない「携帯トイレ」について、総合サービスの御園太郎さん(営業部 課長補佐)に、介護分野の排泄ケアにおけるトイレ処理袋の可能性について、芳井孝典さん(営業部 主任)にお話を伺いました。
災害時のトイレの選択肢は仮設トイレだけではない
日本トイレ研究所代表理事・加藤: 東日本大震災、熊本地震、そして台風や豪雨など、近年は自然災害が頻発しています。自然災害が起きると停電や断水、排水設備の損傷等により水洗トイレの多くは使えなくなってしまいます。しかし、生理現象である排泄は待ったなしです。発災後6時間以内に約7割の人がトイレに行きたくなるという調査結果もあります。そのため、被災地のトイレは劣悪な状態となり、被災者の健康を害する原因になっていました。トイレを我慢すると足の静脈に血栓が出来やすいという避難所における調査データもあります。
私は、トイレ問題は命に関わる重要なテーマだと思います。災害用トイレを開発・販売する企業として、災害時のトイレ対策にどのような課題を感じていますか?
御園さん(以下、敬称略): 被災地に支援物資をお持ちした際に、物資支援の受け入れ窓口の方に「携帯トイレはいらない」と言われたことがあります。その理由は、誰も受け取りに来ないからです。災害用トイレの存在自体がまだ知られていません。現場ではトイレ不足なのに、支援物資としての「携帯トイレ」は使われず、山積みになっていました。災害時のトイレというと、工事現場やイベントで使われている仮設トイレしか知られていないのが現状です。
まずは、自治体の担当者を含め「携帯トイレ」の存在を知って頂きたいです。トイレが不足すると、衛生環境はどんどん悪化していき、生活に悪影響を及ぼします。
被災状況下では、何よりも使いやすさが重要
加藤: 多くの方は「携帯トイレってなに?」と思っていると思いますので、まずは「携帯トイレ」がどのようなものなのかを教えてください。
御園: 「携帯トイレ」というのは、簡単に言うと便器に取りつけて使う袋式のトイレです。水が出ない、汚水を流せないとしてもトイレ室や便器は壊れていない場合が多いと思います。そのようなときにこの袋を便器に取りつけて、そこに排泄し、可燃ごみ(市町村の確認が必要)として紙おむつのように処分します。
加藤: 建物内のトイレに取りつけて使えるのであれば、トイレのために屋外に行かなくて済むので助かりますね。とくに女性や子どもは夜に屋外のトイレに行くのは怖いですし、高齢者がトイレのたびに階段を昇り降りするのも現実的ではありません。
ところで、「携帯トイレ」の袋の中には何が入っているのですか?
御園: 袋の中には吸収シートが入っていて、約1リットル吸収(水の場合)できます。1回あたりの排尿量は200~300㏄ですので、複数回使えるキャパシティがあります。
避難所だろうと自宅だろうとトイレが無ければ生活できません。そのためにも携帯トイレの備えは必須であり、複数回使えることは安心につながると感じています。臭気対策として、シートの中には臭いを抑える抗菌ポリマーが入っているので、腐敗を抑制して臭いの発生を抑えることができます。
加藤: 吸収シートは、使用するときに袋の中に入れればよいのですか?
御園: 「携帯トイレ」というのは一般名称で、弊社の商品は「サニタクリーン」というのですが、袋と吸収シートが一体化されているのが特徴です。停電していて手元が暗い状況だったとしても、袋と吸収シートが一体化しているので便器に被せるだけですぐに使うことができます。また、袋を便器に取りつけたあとにシートの位置を調整する必要がありません。もし一体化していなくて、シートの位置がずれたまま用を足すと吸収がうまくできず、失敗してしまう可能性もあります。一旦汚れてしまうと、掃除する水がないため、どんどん衛生状態は悪化していきます。
だからこそ、袋を便器に取りつけるだけですぐに使えるということを重視しました。また、一人ひとりに取扱説明書がなくても困らないように使用方法を袋に印刷しました。
加藤: 袋と吸収シートを一体化することで、誰が使っても失敗しないことを目指したのですね。
御園: この袋にはもう1つ隠れた工夫があります。袋の下部の両端に水分が溜らないよう斜めに加工してあり、中央の吸収シート部に流れていくようになっています。なぜかというと、袋の隅に水分が溜まってしまうと、保管時や運搬時にもし袋が破れたら漏れてしまうからです。これは弊社の製法特許です。
加藤: ごみ回収も通常どおり実施できるとは限らないので、しばらくは各自で補完することが必要になると思います。その際に安全に保管できるというのは大切だと思います。
過去の災害を風化させてはいけない
加藤: 日本トイレ研究所は、総合サービスのサポートをうけ、災害時のトイレ問題の深刻さと対策の重要性を啓発する冊子をこれまで4冊作成しました。この冊子に関しては、どのような思いが込められていたのでしょうか?
御園: 弊社は阪神・淡路大震災のときから被災経験が風化してしまうことを危惧していました。被災自治体だとしても時間が経ち、御担当の方が変わると、継承していくことが難しくなっていきます。トイレ問題が深刻であったこと、たくさんの学びがあったことが風化する前に情報を集め記録しておく必要があるという話に共感しました。とくに被災者の声に学ぶことが大事です。そこで、災害用トイレに携わる企業として、災害時のトイレがどうであったかを現場の声を基に残すという取り組みを支援させていただくことにしました。
介護現場における排泄ケアの負担を減らしたい
加藤: 災害用のトイレとして開発した商品がベースとなり、介護用のトイレも商品化し、社会的な課題にチャレンジしていると聞いています。ここからは、介護事業を担当している芳井さんにお話をお聞きします。まずは、介護事業に取り組み始めたきっかけを教えてもらえますか?
芳井さん(以下、敬称略): 当時、弊社社長(現会長)の新妻が介護現場に訪れたときに、要介護度の高い人は、ベッド脇に設置されたポータブルトイレの受バケツに水を張って消臭剤を入れ、そこに排泄していました。それを介護者がトイレに流し、風呂場でバケツを掃除・殺菌をして再び使用するという繰り返しでした。そこで、災害用の「サニタクリーン」を活用すれば、バケツのケアをすることなくそのまま廃棄することができるので、介護者の負担を大きく減らすことができ、また利用者も他人に自分の排泄物を見られることがなく、尊厳を保つことができると考え、介護分野での事業を25年前から着手しました。介護用の商品を「ワンズケア」といいます。
衛生的な処理が可能であり、排泄物を介した感染症対策にも
加藤: 現状で、ポータブルトイレはどういった施設で使われているのでしょうか?
芳井: 施設、病院、在宅という3つのフィールドがありますが、9割は在宅介護です。在宅は老々介護や独居高齢者などの場合も多く、ポータブルトイレを利用していれば、処理をする人たちも高齢であり、排泄物処理の苦労は想像に難くありません。少しでも介護者の負担を減らすために、商品を使っていただきたいと思っています。
しかし、最近ではコロナウイルスなど、排泄物からの飛沫感染が危惧され、病院や施設もクラスターを出さないために、オムツやポータブルトイレの処理には気を遣い始めています。秋にかけては、ノロウイルスにも気をつけなければなりません。排泄物関連の飛沫を防ぐために「ワンズケア」を使うことは有効な手段であると考えています。
加藤: 災害用の「サニタクリーン」と介護用の「ワンズケア」の違いは何でしょうか?
芳井: 「サニタクリーン」は災害時に便器に被せられる大きさになっています。しかし、介護用のポータブルトイレのバケツに被せるには袋が大きすぎて不便であるという声が多くありました。そこで6年くらい前に、ポータブルトイレのバケツにサイズを合せた商品を出しました。また、袋の中の吸収シートに含まれるポリマーの量も異なります。介護用は、4~6回分吸収できるものと6~8回分吸収できる2つの製品があり、出来るだけ袋の交換頻度を抑え、利用者・介護者のニーズにあったバリエーションをご準備しています。
加藤: 災害用の「サニタクリーン」は約1リットルの吸収が可能ということでしたが、介護用はどのくらい吸収できるのですか?
芳井: 水道水で、4~6回タイプは約1.2リットル、6~8回タイプは約1.5リットル吸収できます。ただ、尿に含まれる成分は個人差があるので、参考値としてください。
加藤: 他に違いはありますか?
芳井: 袋の色も異なります。オレンジ色とクリーム色の2種類あります。介護では日常品として、燃えるごみとして捨てる際に、汚物が透けないように配慮することが求められます。また、オレンジ色はカラスが視認しづらいと言われているので、カラスにつつかれるリスクも低減できます。さらに、男性の小便も洋式便器に座ってする仕様になっているので、跳ね返り防止のために、シートが前方の上の方のほうまで付いています。
加藤: 今後、在宅介護の人が増えることが想定されますし、2025年には団塊の世代が75歳以上となる超高齢社会を迎えます。どのように普及していくのがよいとお考えでしょうか?
芳井: 現状で、介護用「ワンズケア」が普及しつつある要因としては、全国の介護用品店がポータブルトイレをユーザーに納品する際に、「ワンズケア」の試供品を配付していただいていることがあげられます。介護用品店の人は利用者の喜ぶ顔を見たいという想いが、「ワンズケア」を後押ししてくれていると自負しています。介護の負担を少しでも減らすためにも介護にかかわる人と連携をとっていきたいと考えています。
加藤: 今後の商品の目指すべき方向性があればお聞かせください。
芳井: 在宅のみならず、病院や施設においてもニーズがあると感じていますので、そこに導入するために尽力したいと思っています。質を落とさずに、安価な製品を作り、様々なライフプランのお客様にご利用いただけるような製品を作っていきたいと考えています。
加藤: 災害はいつどこで起こるのか分かりませんし、人は誰しもが老いてきますので、災害および介護分野における排泄問題はすべての人にとって他人事ではないですよね。是非、御社の製品を一人でも多くの方に知っていただきたいです。