見えない地下リスクを可視化せよ!——技術革新で下水道点検に挑む
管清工業株式会社
埼玉県八潮市で起きた道路陥没事故をきっかけに、下水道管の点検・調査の重要性が改めて注目されています。下水道の調査・維持管理を手がける管清工業株式会社の長谷川健司社長に、下水道調査の技術革新についてお聞きしました。(聞き手:NPO法人日本トイレ研究所代表理事・加藤篤)
八潮市の陥没事故が示した、下水道の課題
――2025年1月に埼玉県八潮市で起きた道路陥没事故は、大きな衝撃でした。あの事故の原因は何だったのでしょうか。
長谷川社長: 下水道管の中で発生した硫化水素によって下水道管が腐食し、管に亀裂が入り、周りの地盤の土砂が引き込まれることで、地下に空洞ができたと考えられています。硫化水素は汚水によって発生する有毒ガスで、長期間かけてコンクリートを腐食させます。突然の痛ましい人身事故と道路不通、流域住民120万人の排水制限等の様々な問題へと波及し、下水道管路管理の重要性を改めて認識する事故となりました。
――事故を受け、国土交通省では下水道管路の「全国特別重点調査」を地方公共団体に実施を要請しました。こちらの調査について教えてください。
長谷川社長: 全国の下水道のうち、管径2m以上かつ平成6年度以前に設置された管路が対象です。このうち八潮市の道路陥没現場と似ている構造・地盤条件の箇所、管路の腐食しやすい箇所、陥没履歴があり交通への影響が大きい箇所などは、優先的に調査を実施することになりました。2025年8月までに調査された約730㎞のうち、1年以内に速やかな対策が必要と見込まれる「緊急度Ⅰ」に該当したのは、約1割に該当する72㎞でした。この「全国特別重点調査」では、2026年にかけてさらに約5千㎞の調査が行われる予定です。
――日本中に老朽化した下水道管は多いのでしょうか?
長谷川社長: 日本では高度経済成長期に河川の水質悪化といった公害問題が起こり、1960年代から一気に下水道の整備が進みました。下水道管の耐用年数はおよそ50年と言われています。長く使うために、定期的な点検や清掃、修理などメンテナンスを行っているわけですが、耐用年数を過ぎた下水道管が今後増え続けていくことになります。
全国の下水道管路は全部で49万㎞にもなります。全てを一度に点検することは不可能ですから、どのように進めるかが大きな課題です。今回の調査が始まったのは非常に重要な一歩だと思っています。
進化する“地下の仕事”
――下水道の調査・点検はどのように行われているのでしょうか?
長谷川社長: 調査方法として多いのは、下水道管路の中をテレビカメラで映して調査する方法です。管路の大きさや構造に応じて様々な機材を使用します。例えば、大きな口径の管路であれば、自走式のテレビカメラシステム「グランドビーバーシステム」を走行させて調査をします。カメラで映像を映すだけではなく、レーザー光によってクラック(ひび割れ・亀裂)の有無やサイズ、硫化水素濃度などを計測することができます。
最近では、ドローンによる調査や、カメラの遠隔操作も進んでいます。遠隔操作は、例えば東京の会議室から、能登半島の下水道管を調査することができます。1日で複数の現場を確認できるため、遠隔操作は効果的です。
ほかにも管路の状況に応じて、ハンマーによる打音調査、音波を管路内に発信する音響テストや、配管の厚みや詰まりなどを計測するX線撮影調査などを行っています。
下水道管路の劣化によって周囲の地盤にできた空洞を探す調査をする際、従来は地表から空洞を探していましたが、この方法だと地下1.5mほどが調査できる限度です。そこで、逆に地下の下水道管の内部から空洞を探す方法を開発中です。地表よりも下水道管に近いほうから空洞ができ始めるので、この調査技術によって、これまで見つけられなかった初期の空洞を見つけられるようになるのではと期待しています。
――技術革新に力を入れるのには、どんな背景がありますか?
長谷川社長: 下水道というインフラを支える企業として、調査精度を高めながら、効率化と安全性を確保するために、技術革新は非常に大切だと考えています。現場の技術と、そこで働く人が一番大切だという思いは、私がこの仕事に就いてからずっと変わっていません。
下水道管の老朽化が社会課題となる一方、人材不足のなかでどうやって維持管理をしていくか考える上で、技術革新がますます大切になっていると感じます。
――現場の安全対策という点でも変化がありそうですね。
長谷川社長: 下水道管内では有害物質が発生するため、管路に人が立ち入って調査することにはリスクもあります。もちろん安全対策は行っていますが、ヒューマンエラーをゼロにすることは難しいと思います。
当社も加盟している公益社団法人日本下水道管路管理業協会では、安全確保のため、有資格者を現場に配置することや、人ができるだけ管路に入らず調査・点検することを自治体などに要望しています。
今後、膨大な距離に及ぶ下水道管路の調査を行っていくにあたり、若い人や異業種からの参入も期待しています。その際に安全で魅力ある仕事にするため、AIやドローンも含めて様々な技術を駆使していきたいと考えています。
――全国的に人材不足の中、下水道管路の調査や維持管理は待ったなしです。どのように挑もうとお考えですか?
長谷川社長: 当社は全国展開していますが、この業種は地域密着の企業が多い業界です。現場で働く人を増やし技術力を上げていくためには、地元企業との連携が欠かせません。私たちは大型機械や専門技術などの提供によって、地元企業をサポートする役割となることで、地域に雇用も生まれ、持続的なネットワークが築けると考えています。得意な分野を活かして役割分担しながら共に育つ関係をつくるのが私たちのスタンスです。
下水道の「見える化」で市民理解を広げる
――これからの下水道の仕事に求められる観点は何でしょうか?
長谷川社長: 市民の理解を広げることです。トイレやキッチンから発生する汚水がどのように流れて行くのか、皆さんが普段の生活で意識することは少ないと思います。
そこで、例えば当社では調査の「見える化」を進めています。調査中の管内の様子をモニターに映して説明することで、下水道の現状などを知っていただくことができます。この活動は、国土交通省からの表彰もいただきました。下水道インフラを維持管理していくためには、まず、市民とともに老朽化している現状を共有することが大切だと考えています。
――教育的な意味でも重要ですね。
長谷川社長: 次の世代に関心を持ってもらうためにも、「下水道って面白い」と思える体験を増やすことが必要です。2025年4月、金沢大学と「グローバル水未来講座」という共同研究講座を立ち上げました。AIを活用した下水道の新技術研究に取り組み、社会実装を目指しています。テーマはあえて限定せず、自由な発想で「これからの水インフラ」を考える場にすることで既存の枠組みを超えたアイデアが生まれることを期待しています。特任教授や大学院生も多数参画予定ですので、これからが楽しみです。
――最後に、長谷川社長ご自身が大切にされていることを教えてください。
長谷川社長: どんなに技術が進んでも、現場を知らなければ本当の課題は見えません。私たちの仕事は、人の暮らしを守る基盤づくりです。また、下水道の維持管理の課題にどう対処していくかは、国や自治体だけではなく市民の理解も欠かせません。だからこそ「現場で働く人を大切にすること」「現場の課題と真摯に向き合うこと」「現場で起きていることを正しく共有すること」が重要だと考えています。この3つを忘れずに、次の世代に下水道をつないでいけるよう取り組んでいきます。


