うんち研究室 - 辨野先生に聞く!(第2回)

辨野義己先生今回は先生の現在の研究から野望まで、腸内常在菌の可能性を教えて頂きました。

腸内常在菌から未来を予測する!?

 腸内常在菌を用いた健康増進プロジェクトの準備を始めています。腸内常在菌は構成、機能など、まだまだ分かっていないことが多く、ここ理化学研究所でも60年に渡って基礎研究が行われてきました。腸内環境は、遺伝、性別、居住、食生活、運動習慣などいろいろな影響で変わります。病気でも変わります。それを研究して、腸内常在菌から健康診断を行おうという取り組みを始めています。腸内常在菌の種類と病気や食品との相関性をデータベース化し、腸内環境から未来の病気を予想していこうという研究です。今までの腸内環境テストは、食事条件を規定せずに行っていましたから、食品と腸内常在菌の相関性は見えなかったんです。しかし、このプロジェクトでは食事を統一(テストミール)することによって、食品と腸内常在菌の相関関係がより明確に分かるようになりました。食餌成分が明らかな“テストミール”の開発から始まり、テストミールを用いた調査、それを解析して腸内常在菌の構造と相関性のパターン化、と進める予定です。パターン化ができあがれば、今の腸内状況から将来かかる可能性のある病気を予想できるようになる。これを私たちは“おなかクリニック”と呼んでいます。おなかの天気予報図をつくっていくわけですね。
 広く使ってもらえる健康診断の一つにしたいと考えています。団塊の世代が70代になったら、医療費の試算は62兆円だそうです。そんなお金を使うなら、もっと病気になる前にできることがないか、ということです。今までの検便は、便潜血反応などで既に病気の人を探せるだけでしたが、おなかクリニックでは、腸内環境から病気になる前に病気の可能性を予測して、その人にあったライフスタイルや食事などのテーラーメイドのアドバイスができるようになる、つまり病気になる前の人を見つけ、病気になる前に手を打とうというわけです。

トイレは健康管理の入り口

 この検査が確立されれば、管理栄養士はもっと重要になりますね。管理栄養士が作ったメニューの給食を食べている子どもたちの結果は悪くなかったですよね。ライフスタイルや食事のアドバイザーとして、管理栄養士にはこの“おなかクリニック”と連動してもっと活躍してもらいたいと思っています。食品と腸内常在菌の関連性がもっと分かってくれば、アドバイスも具体的にできるようになるでしょう。トイレが健康管理の場所なんだという発想を持って欲しいです。血液検査や尿検査のように、健康診断の一つとして、みなさんに研究成果を還元していきたいと思っています。おなかっていうのは病気の発信源ですから、どんどん検査技術が進歩していることは非常に大きいし、いい時代に研究できたと思います。今後は若い人たちに次の時代をつくっていってもらいたいですね。
 理化学研究所は60年以上に及ぶ腸内常在菌研究の経験と知識を、産業界と連携して還元できる時が来たのではないかと思います。腸内環境から予防医学をすすめることで、医療費を減らすことができるだろうと考えています。どんどん『うんち研究』も進化していますよ。

「うんち」から人の未来を切り開く辨野先生でした。

辨野義己先生プロフィール

独立行政法人 理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室長。 農学博士。酪農学園大学獣医学科卒、東京農工大学大学院を経て2004年から現職。35年以上にわたって腸内細菌学・微生物分類学の研究に取り組んでいる。

おもな著書として、「ウンコミュニケーションBOOK」(ぱる出版)、「ヨーグルト生活で「腸キレイ」」(毎日新聞社) 「ビフィズス菌パワーで改善する花粉症」(講談社)、「べんのお便り」(幻冬舎)、「病気にならない生き方で、なる病気」(ブックマン社)などがある。