子どもたちのからだの危機

今回は、運動発達学がご専門の山梨大学准教授中村和彦先生にお話を伺いました。中村先生はNHK教育テレビ番組「あさだ!からだ!」監修や文部科学省の委員等、多様なことに従事されております。「子どものからだの危機」をテーマに運動発達学の観点からお話を伺いました。

子どもの体力低下の問題化

近年、子どもの体力低下が問題になってきています。しかし、日本では、まだまだ学力低下への関心の方が高いといえます。「うちの子どもは、小学校に元気に通っているから大丈夫」という保護者の認識がほとんどだと思います。しかし、近年、スポーツテストの結果は下がり続けています。1980年代の半ばまでは、テストの結果に大きな低下は見られませんでしたが、85年をピークに、小学生から高校生までの全年齢で、実施年の前年の結果を上回ったことはありません。

子どもの体力低下問題の裏にあるからだの異変

客観的なデータによる体力低下問題も深刻ですが、私はそのデータの裏にある子どものからだの異変に問題があると感じています。この10年間くらい、私を含めた運動発達学の研究者たちが出した結論は2つあります。 1つは、いろいろな動きが発達していないことです。例えば、「投げる」という動作を正確にできる子どもは非常に少ない状況です。「投げる」だけではなく、「跳ぶ」「走る」も同様です。私が推奨している身につけるべき動きは36種類あるのですが、子どもたちの問題発生要因は、それら基本的な動作を身に付ける機会の減少だと思います。体力は、大きく分類すると、筋力(力を発揮する能力)、持久力(長く運動する能力)、瞬発力(からだをコントロールする能力、からだを調整する能力)の3つに分けられます。幼児期から小学校の時期に発達が著しいのは瞬発力です。そのため、その時期にいかにいろいろな動きを経験して、からだに覚えさせるかということが大事です。
もう1つは、著しい運動量の低下です。昭和40年代の小学生の1日の歩数量は、約2万歩でしたが、現代では1万~1万3千歩です。
 今の子どもたちは、昔に比べ、かくれんぼやおにごっこのような遊びによる運動をやらなくなっています。それも原因のひとつだと思いますが、足首や膝、腰を曲げて緩衝できないからだの仕組みになってきています。そのため、転んだときに、手をつけず、顔面を打ったり、骨折したりする事故が頻発しています。

36種類の基本動作について

中村先生のレポート(2)>

中村 和彦(なかむら かずひこ)先生プロフィール

中村和彦先生

筑波大学体育センター准研究員、山梨大学教育学部助手を経て、現在、山梨大学教育人間科学部准教授。子どものからだやこころの問題についての研究に従事。子どもの遊びの重要性に関する調査・研究の第一人者。難しい理論を誰にでも分かる平易な表現で伝えてくださるところには定評がある。
他に、文部科学省中央教育審議会スポーツ・青少年分科会スポーツ振興に関する特別委員会委員、文部科学省学習指導要領小学校「体育」の改善に関する調査研究協力者会議委員、(財)日本体育協会ジュニアスポーツ指導員部会部会長、(財)日本放送協会(NHK)番組名「からだであそぼ」「あさだ!からだ」監修者など。専門は運動発達学、発育発達学、健康教育学。著書に『子どものスポーツプログラム』(日本スポーツ少年団、編著)、『総合的な学習の時間と健康教育』(労働教育センター、共著)、『子どものからだが危ない!-今日からできるからだづくり-』(日本標準、単著)。